PRESIDENT

<通信欄>

教育活動効果の可視化・数値化について

2022/06/10

 昔話になって恐縮ですが、私は大学に移る前に総合電機メーカーの研究所で24年間研究活動を行っておりました。仕事は製造部門から依頼される製品性能の向上やコスト低減を目指す研究開発に加えて、将来技術の芽を探しだす探索基礎研究と幅の広いものでした。両者ともその難しさに違いはありませんでしたが、前者は目標がそれなりにはっきりしていますのでどのような経路を辿り目的地に進んでゆくかを考えればいいわけですので、後者に比べて少しは取り組み易いといえるのではないでしょうか。一方、探索基礎研究では滅多矢鱈と当てずっぽうで研究テーマを決めるわけにはゆきませんので、これはと思ったテーマを幹部に説明し理解が得られてはじめて研究を開始できる仕組みになっていました。当たり前ですが説明に際してはそのテーマがもつ発展性や企業価値等を数値を用いて説明しなければ幹部の理解が得られませんので、色々と苦労した記憶があります。その後、大学での教育研究活動を経て、現在は理事長として中学校・高等学校の教育活動の運営に携わっていますが、この間強く感じた点は日本の教育現場においては教育活動の効果に対する可視化・数値化への取り組みが欧米に比べて大変遅れているのではないかという点です。

 時代とともに教育内容、教育手法も変わってゆきますから教育活動に対する効果を評価するには定性的なレベルにとどまらず、より定量的な指標をもって行うことが必要ではないかと考えています。言い換えれば、教育経済学の考えを取り入れ、エビデンスに基づいて教育活動の効果を評価し改善を進めてゆくことが今後益々重要になると考えています。これを実践する教育経済学では『教育に関する実験を教育現場で行い教育効果に関する因果関係をエビデンスとして明らかにする』を基本としていますが、世界に比べ日本では大変遅れており、教育分野での実験に対して社会的な理解と寛容さが欠けていると中室牧子慶應大学教授は“「学力」の経済学”の中で述べられています。また、「教育は数字では測れない。教育を知らない経済学者の傲慢な考えだ」とも批判を受けたと述べられています。日本では欧米のプラグマティックなアプローチではなく、理念、精神論的な思考論理が主流となる岩盤が形成されており、教育改革がなかなか進まないのではないかと愚考するばかりです。日本人の持つメンタリティーの点から物事を一気に変えることは難しいように思いますが、教育現場では何がエビデンスであるのかを常に意識し、注視・抽出する姿勢が教員には求められるべきではないかと考えています。

 さて、話は少し変わりますが、自然科学から社会科学にいたる幅広い分野で成り立つパレートの法則(別名、80対20の法則)という経験則があります。これが教えるところによれば、100のエフォートで100の結果が得られた事例があるとすると、多くの事例では20のエフォートで80の結果がもたらされているという内容です。教育活動に対してパレートの法則を適用するのは乱暴すぎるとの批判を承知の上でいえば、80の教育効果をもたらす20のエフォートの実体をエビデンスとして見出すことができれば大幅にエフォートを減らすことができ、生徒、教員の双方にとり望ましい教育活動の現場となるのではないでしょうか。さらに生徒、教員のエフォートを増やすことなく、新規な教育施策で教育効果の更なるアップを目指すには、これまで進めてきた教育活動を取捨選択することが必要となるのは言うまでもありませんが、そのためにも教育活動の効果の可視化・数値化を進める必要があると考えています。