高校特別文化講演会 2015年ノーベル生理学・医学賞受賞 大村 智博士 後編
2019/04/19
高校特別文化講演会 2015年ノーベル生理学・医学賞受賞 大村 智博士 前編 から続く
世界3億人を失明から救った薬
液体培養の手法で年間に微生物4,000株を調べられる大村博士のご研究活動からは、現在までに500種近い化合物が発見され、そのうち26種が医薬品や農薬•研究用試薬に利用。数々のご研究から、今回は誰もが待ち望んでいたイベルメクチンに関するエピソードをお話しくださいました。
1971年の春に米国・カナダのいくつかの大学や研究所を訪問されたなかから、米国ウエスレーヤン大学のマックス・テイシュラー先生と繋がりが持て、同年秋には同先生のもとへ客員研究教授としてご留学。テイシュラー先生はその後間もなく、ACS(American Chemical Society=米国化学会)の会長になられたため、同先生に代わって大村博士が大学院生や博士研究員の指導をされました。
このことがテイシュラー先生に認められ、同先生は大村博士が日本帰国時に考えられていた動物薬の製薬企業との共同研究という産学連携アイデアを応援くださり、米国メルク社(メルク・アンド・カンパニー)を紹介してくださいました。それが、後に抗寄生虫薬イベルメクチンの開発へと繋がります。
1回の皮下注射で寄生虫をほぼ100%駆除できるこの画期的な薬は、家畜やペットのフィラリア特効薬として発売後20年余りも動物薬No.1の座に君臨し、そのロイヤルティからは新たな研究で社会貢献するための機会が生まれました。
ミクロフィラリア(幼虫)が原因で足が痒くなり、失明するおそれもあるオンコセルカ症(河川盲目症)や、感染を繰り返すと足が異常に腫れ上がるリンパ系フィラリア症(象皮症)はヒトに感染しますが、イベルメクチン(メクチザン®)はこれらにも有効。そこで、WHO(世界保健機関)を通じてアフリカ・アジア等の蔓延地域に無償供与が続けられたところ、2020年にリンパ系フィラリア症が、2025年にはオンコセルカ症も、それぞれ撲滅が見込めるようになったこともご紹介くださいました。
ちなみに、この講演で大村博士が締めておられたネクタイは恩師、テイシュラー先生の形見で、ご恩は決して忘れないとも語られました。
社会貢献として、郷里へご恩返し
さらに、ご自身の社会貢献に対するお考えとして、病院(北里大学メディカルセンター、埼玉県北本市)を開設し、絵画や音楽によるヒーリングアートを30数年前から実践してこられたこと。郷里にも約2,000点の絵画を寄付して美術館(韮崎大村美術館)を開館されていること等に言及。海外講演の際にはスライド等も使って日本文化を紹介され、「一期一会」の心を大事にされていることもお話しくださいました。
孔子の「其れ恕か」(それじょか)の言葉を引き合いに「思いやり」の、また「挑戦しないでチャンスを逃がすことを恐れなさい。挑戦して失敗しても後の人生にとって宝となる」と「チャレンジ」することの、それぞれの大切さを最後にメッセージしてくださった大村博士。
本校生との質疑応答にも丁寧にお答えいただき、廣瀬高校生徒会会長(当時)らから贈られた感謝の言葉と花束に笑みを浮かべてくださったそのお姿からは、かくしゃくとした世界第一線の科学者に共存する人生の大先輩としての真摯で温かなお人柄を感じました。
大村 智先生、当日は貴重なご講演をいただき、誠にありがとうございました。