LECTURE

高校特別文化講演会 2015年ノーベル生理学・医学賞受賞 大村 智博士 前編

2019/04/19

1981年に発売された家畜•ペットの抗寄生虫薬イベルメクチンは、ヒトにも有効なことから後にストロメクトール®としても市販。熱帯の発展途上国等にはメクチザン®として無償供与され、2012年には世界3億人以上に投与されて、発展途上国における「公衆衛生上過去最大の成果」(ユネスコ)と人類規模で評価されてきました。

このイベルメクチンを米国の製薬会社と共同開発されたのが大村 智博士で、2015年には線虫の寄生が原因となる感染症への新たな治療法の発見が認められ、 ノーベル生理学・医学賞を受賞されました。

315()に開催しました特別文化講演会には、この大村博士を招へい。「私の歩んできた道」と題して、ご自身の幼少時から現在に至るまでの歩みを、イベルメクチンを例にしたご研究活動のエピソードや社会貢献への思い等も交えながら、高1・高2を中心に学外からの聴講者も含む計688人を前にお話しいただきました。

 

恩師に恵まれ、努力を怠らず

山梨県韮崎市の農家の長男として生まれられた大村博士は、山や田んぼでご両親のお手伝いをしながら成長。詩人で文化勲章受章者の大岡 信氏「眺望は人を養う」の言葉を引用しながら、富士山や八ヶ岳を間近にする生家の環境にまず触れられました。

恩師に恵まれた中学時代、卓球とスキーに熱中した高校時代、そして農家を継ぐことから一転しての大学進学時と再度スキーに傾倒した大学時代…。特に、スキーからは「レベルの高い環境に身を置くこと」「自分たちで工夫すること」「友人は人生の宝であること」を学んだと振り返られました。

大学卒業後に定時制都立高校の教職に就かれましたが、生徒たちの懸命に学ぶ姿に触発され、教員をしながら有機化学を修めに東京理科大学の大学院へ。その後、工学部発酵化学研究施設の助手に採用された母校・山梨大学に戻り、「微生物」の能力に感動されたことから、化学と微生物の両方を使った研究にご自身の研究分野を見つけられます。

日本の細菌学の父・北里柴三郎氏を創設者とする北里研究所に移られてからは、「研究成果は適切に実地に応用して国利民福の増進に寄すること」という実学の精神のもと、微生物の産生する化合物に目的の物質を見つける探索研究と構造決定の仕事に日夜没頭。「泥を被る仕事をしよう」と、自分で有用な化合物の探索を重ねてきた先に、今回のノーベル賞受賞が結び付いたと述懐されました。

中高大・社会人を経て研究者の道へ。相好を崩しながら語られる若き日の恩師や仲間とのエピソードからは、当時がすでに充実した日々であったことがうかがえました。

 

高校特別文化講演会 2015年ノーベル生理学・医学賞受賞 大村 智博士 後編 へ続く