理事長室からの手紙

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社会人基礎力

2017/06/01

前回の「生きる力」に続いて今回はその大学版とも言うべき「社会人基礎力」について話をします。

2006年、私は経済産業省の経済産業政策局長をしていました。当時、社会問題となっていたのが離職問題でした。大卒の3割が就職後3年以内に退職し、そのほとんどが希望する転職ができず、いわゆるフリーターになっていることでした。

就職の際の大学生の希望と会社側の期待にミスマッチのあることが原因であり、そのため若者が希望を失ってしまうことは社会的な損失です。「再チャレンジ」のできる社会に改革しようというのが内閣、全省庁の方針でした。

経済産業省では、有識者懇談会を設置して検討を進めました。大学の教育が専門知識の習得に偏り、社会人として生きていくための教育になっていないのではないか、という問題意識でした。

産業界からは、「指示待ち人間」、「マニュアル人間」では、国際競争、技術革新など急速に変化する時代に対応できないという危機感がありました。

そして「社会人基礎力」という概念が提言としてまとめられました。

社会人基礎力とは、①前に踏み出す力(主体性、実行力等)、②考え抜く力(課題発見力、創造力等)、③チームで働く力(傾聴力、柔軟性等)に3分類される12の能力であり、企業や団体が採用の際重視するものです。

この提言を受けて、大学では専門的知識の習得に加え、社会人基礎力を身に付ける試みが行われています。キャリア教育や在学中に企業で働くインターンシップ等が多くの大学で導入されました。その後文部科学省で学習指導要領が改訂され「生きる力」の養成が提言されたのですが、これは社会人基礎力と共通する問題意識に基づくものです。

中学入学から高校、大学卒業まで概ね10年以上基礎的な知識、専門的な知識を修得するのがこれまでの教育の中心でした。しかし、その後40年以上社会人として生きていきます。10年間の教育で身につけた知識だけでは、その後の社会の変化、技術革新、国際化などに対応できません。

もっと重要なことは、知識を応用する能力、課題を見つける能力、必ずしも答えがあるかどうか分からない状況下で次善の策を見つけ、決断する勇気、生涯を通じて自分を高める努力などです。

そういう力を身に付ければ、社会の変化にも対応することができ、仮に不幸にして失職したときもそれを乗り越えていくことができるはずです。それが「生きる力-社会人基礎力」だと思います。

中学高校と大学でそのような教育改革が進められているにも拘らず、高校と大学の接点である大学入試がネックとなっていました。10万人規模の受験者がいる大学では、短期間に合格者を選別するため、マークシート方式で知識の量を中心に1点刻みで受験者をふるい落とす試験が行われています。難問、奇問が出題される傾向もあります。それでは、高校教育が「生きる力」を養成することよりも、受験の成果に繋がる知識のつめ込み教育になりがちです。大学入試を変えなければ、中学、高校の教育が変わらないというのが現在検討が進められている大学入試改革の問題意識です。そして2020年度から知識の量よりも、思考力、判断力、表現力などを試すことに重点を置く試験に移行する方向で検討されています。

前回も申し上げましたが、三田学園では、新コース制を導入し基礎的な知識の習熟度の向上を図るとともに、高校入試がない中高一貫校の有利性を活かして生きる力、つまり思考力、判断力、表現力などの養成を目指します。このため、4月に教育研究部を新設して、大学入試改革にもこれからの社会の変化にも対応できるよう教育力の強化を具体的に進めてまいります。