PRESIDENT

<通信欄>

STEM教育からSTEAM教育への流れ

2021/06/03

自由七科と哲学

 最近の大学教育では、STEM教育(Science Technology Engineering Mathematics)と呼ばれていたものにAが追加されたSTEAM教育の重要性が頻繁に話題に上がります。Aは芸術と教養(ArtとLiberal Arts)を意味しています。STEMについては、人工知能(AI)やデータサイエンスの今後の発展を考えればその重要性を議論するのは当たり前と思えますが、一方、芸術や一般教養の教育が今更大切ですよと言われても、その理由がよくわからないという疑問の声があがるのではないでしょうか。これには背景があります。ことの発端は1991年に文部科学省の大学審議会(現在の中央教育審議会大学分科会にあたる会議体)から出された答申『大学教育の改善について』を受けて大学設置基準が改正されたことに始まります。この改正により一般教育と専門教育の区分が取り払われたため(設置基準の大綱化と呼んでいます)、多くの大学では専門教育に偏重した組織改組とカリキュラム改革が進み、一般教育を担ってきた教養部などの母体となる組織の改組・解体が進み教養教育が手薄な状況となってしまったことへの反省からAが付け加わり議論されているのだと考えています。

 以上は、日本の大学教育という面からみた教養教育の重要性の再認識であるといえますが、ビジネスをはじめとする実社会における教養の重要性については、元ニューズピックスの編集長であった佐々木紀彦氏が“日米エリートの差は教養の差である”と『リーダーの教養書』という本の序文で、日本人ビジネスパーソンの目先の仕事に目を向けすぎる短絡的な姿勢に警鐘を鳴らし、教養が持つ普遍性、そして『普遍性×時代性』が世代や国や分野を超えたビジョンや理念を生むために不可欠であると述べています。普遍性を教養(A)に、そして時代性を(STEM)に当てはめてみればまさに大学教育で議論されるSTEAM教育の重要性は正論であると感じる次第です。

 さて、話を本学に関係する初等中等教育に移しますと、 “『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~すべての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現”という答申が今年1月に中央教育審議会からだされ、義務教育ではGIGAスクール構想を背景とした新たなICT環境や先端技術の活用、多様な他者と協働した探求的な学び、そして高等学校教育ではSTEAM教育など実社会での課題解決に生かしてゆくための教科等横断的な学びが項目として挙げられています。探求的な学び、教科等横断的な学びは新学習指導要領で取り上げられている項目であり、校祖小寺謙吉先生が目指されたグローバルリーダーの育成と世界標準の教育を進めてゆくうえで本学においてもしっかりと取り組んでゆかなければならないものと考えています。一方、これらに該当する科目としては中学では『総合的な学習』、高校では『総合的な探究』が対応しますが、数学、英語などの科目と比べて授業時間数が少ない事、大学入学共通テストの科目の中に含まれないことから、その重要度は低く付録のような科目であると誤解されている方が多いのではないかと大変危惧しているところです。目の前にある大学入学共通テストに目を向けすぎて、社会に出た後にめぐりくる困難に打ち勝ち人生を切り拓いてゆく力の源泉となる探求姿勢の獲得をゆめゆめ疎かにしてはいけないと強く思っております。

 今年3月の中学校卒業式では『考える力、思考力』について話しました。そのポイントは答えを聞くAskの学習ではなく、多面的な情報を集め再構成するInquireの姿勢を身につけることが高校、大学、そして社会に出た後も基本であるとの内容でした。ではどのようにすればこのようなInquisitiveな学習姿勢を身につけることができるのかについては、英文学者の外山滋比古先生が書かれた『思考の整理学』を例にあげて4月の高等学校入学式で紹介しました。この本では大学生が卒業研究論文を書くにあたって、『考える』とはどういうことであるのかを段階を追ってわかりやすく解説されています。まさに『総合的な学習』、『総合的な探究』の目標を達成するに必要なスキルが具体的にまとめられていますので、三田学園の生徒の皆さんにはぜひ読んでもらいたい本です。

 三田学園では文武両道を教育の重要な柱の一つに掲げています。武で筋力を、そして文で脳力を共に鍛えてゆきましょう。

新年のご挨拶

2021/01/08

 新年、明けましておめでとうございます。旧年中は本学園の教育活動にひとかたならぬご理解とご支援を賜りました。厚くお礼申し上げます。

 さて、令和2年は新型コロナウイルス感染症によるパンデミックにより全世界が社会的大変容(Transformative Change)を経験することとなり、社会のグローバル化の急速な浸透を否応なく認識させられるとともに、何気ない普段の生活がいかに掛け替えのないものであるかを再確認した一年でありました。

 学校教育の現場ではデジタル端末を利用する遠隔授業が進み、社会では自宅でのテレワークが一般化しました。アナログをデジタルに置き換え高効率化を図るデジタイゼーション(Digitization)の取り組みから、ICTの活用による新しい価値の創造、すなわちデジタライゼーション(Digitalization)への転換が本格化いたしております。三田学園においては数年前よりタブレット端末を利用した先進教育を進めておりますが、今一度、教育の原点を見つめ直し、三田学園に固有な価値の創造を目指すことが今年の教育面での大きな課題の一つであると考えております。

 また、斯様な社会的な危機を学校法人としての永続性・公共性について改めて思料する契機と捉え、建学の精神に基づき本学がこれからも引き続き社会から評価されるために本学の教職員はいかにあるべきかを理事会で熟議し、教職員行動規範として纏めました。

 一昨年より進めております第Ⅱ期募金事業「教育振興基金」につきましては多くの方々よりご賛同をいただき、生徒たちのより良い教育環境と機会提供の使途に活用させていただいております。この場をかりまして御礼申し上げるとともに、引き続いてのお力添えを賜わりますようお願い申し上げる次第です。

 最後になりましたが、皆様のこの一年のご健康とご多幸を心よりお祈り申し上げております。

令和3年1月

学校法人 三田学園

理事長 丸泉 琢也

海外に目を向けよう

2020/11/04

スイス・チューリッヒの市街地

 ここ数年来、『最近の若者は海外に関心を示さない、中国、韓国の米国への留学生数に比べ日本人留学生の比率はどんどん減っており、今後の日本の科学技術が心配だ』等々、若者の海外離れを嘆くマスコミ記事をよく見かけます。中国では『海亀』作戦と称して海外で博士号を取得した研究者の母国への『海帰』を国家が奨励するシステムについてもよく耳にします。そこで、いま三田学園で学んでいる生徒の皆さんに少しでも海外に関心を向けてもらいたいと思い、私の海外経験についてすこしお話させていただく事としました。要点は、海外に目を向けふれあう経験は極めて大切、日本を離れ長期の海外滞在を経験すると新しい道が見えてくるし、これまで歩んできた道を改めて考え直し、より充実したものにできる、の2点です。

 さて、私が三田学園に通っていた昭和40年代は、1ドル360円と今から見れば非常に円安で海外旅行となると大変な時代でした。日曜朝にテレビで放映されていた『兼高かおる世界の旅』を見るのを楽しみにしていたぐらいで、海外への憧れをぼんやりと持ちながら育ちました。

 私が海外と直接の関係をもったといえるのは、大学院博士課程に在籍していた時に宝塚ホテルで開催された国際シンポジウムへの参加が最初でした。博士論文では核二重共鳴法(NMRとNQRを組合せる方法)というラジオ波分光学の装置開発を進めており、核二重共鳴法の原理を開発されたHahn先生(University of California, Berkeley)の講演を聴講したことです。シンポジウムを主宰された当時大阪大学教授の千原秀昭先生が流暢な英語でオープニングの挨拶をされた光景をいまだによく覚えています。同じ研究分野の大先輩として海外の教授たちをもてなされている姿が、学生の目にはたいへんかっこよく映り、自分もあのようになりたいと強い刺激を受けました。

 大学院を修了した後、日立製作所の研究所に勤めましたが、当時の多くの若者と同様にパックツアーを利用した新婚旅行がはじめての海外渡航の経験となりました。その後、現在に至るまで北米、欧州、北欧、アジアの各都市で開催される国際シンポジウムに参加する機会を数十回以上もちましたが、夫々の地域の文化・風土と人々の生活に触れることができたことは研究を深めるだけにはとどまらず、世界の多様性を肌で知る大変貴重な経験となりました。その中で、1985年4月から86年12月末までの約2年の間、日本のしがらみから離れ、チューリッヒのスイス連邦工科大学(ETH;Eidgenössische Technische Hochschule Zürich)で客員研究員として過ごした日々は、その後の人生の歩み方を大きく左右するものとなりました。ETHはこれまでノーベル賞受賞者を21名輩出し、Times Higher EducationによるWorld University Ranking2020で13位、欧州本土1番の大学であることからわかる通り、その研究力の高さは誠に素晴らしいものでした。毎週開かれるコロキウム(colloquium)では世界各国の一流研究者から最新の研究成果が発表されていました。その中で、ホフマン・ラ・ロッシュというスイスの製薬会社の研究者が発表していたComputational chemistry(計算機化学)によるDrug design(創薬)という研究が私の興味を掻き立てました。これまで実験一筋で研究を進めてきたものにとり、計算機シミュレーションにより実際の創薬が可能であるという発表にはまさに目から鱗といえる感覚を覚えたのです。これを契機に研究の方法を実験から計算機シミュレーションへと180度転換することを決意し、現在に至るまでシミュレーションを中心にした研究をすすめることとなりました。現在、京や富岳などのスーパーコンピュータの重要な利用分野の一つにあげられるIn Silico創薬の原点に触れることでその後の研究生活が変わったのです。

 今から思うに、約2年間という長い期間にわたり、日本の生活環境に左右されない離れた場所で、一流の人材との交流の中で新しい事柄に触れ強い刺激をうけて、そしてゆっくりと考える時間が持てたがためにできた行動であったと考えています。三田学園の生徒の皆さんには今後の生活の中で海外に臆することなくチャレンジしてもらいたいと考えています。私のチューリッヒでの経験は35歳から36歳の時とだいぶ人生も中盤にかかってからの時期でした。高校生、大学生など感受性のより高い時期に、自分でしっかりと考えた目的を持ち、目標を定め、おこたりなく準備を重ねたうえで短期・長期の留学経験を持つことは強い刺激と貴重な経験が得られ、その後の人生をより豊かなものへと導いてくれるものと確信しています。今後、三田学園では国際化に向けた取り組みを強化し、皆さんのチャレンジを支援してゆきたいと考えています。

 

EDX(Educational Digital Transformation)のはじまり

2020/06/22

学校法人三田学園 理事長 丸泉琢也

 まだまだ終息の兆しが感じられない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を追い風として、日本の高等教育の現場ではこれまでの面接授業一本やりであった講義形態が、ZoomやWebexなどのTV会議システムを用いた双方向遠隔授業や学生が好きな時間に講義内容を視聴できるオンデマンド授業などへのパラダイムにシフトしつつあります。一言でいえば、まさにEDX(Educational Digital Transformation)がはじまろうとしているといえます。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)とはクラウド、ビッグデータ、ソーシャル技術などの新たなデジタル技術を駆使して新しいビジネスモデルを創出し、社会ニーズに合わせて臨機応変に改変してゆくという企業経営戦略として注目を集めているものですが、まさに日本の教育の世界でも同様な潮流が生まれつつあります。社会ニーズを『学修者本位の教育ニーズ』に、新しいビジネスモデルを『学修到達度が高く、自発的な学び・気づきを誘う価値の高い斬新な授業』と置き換えて考えてみるとわかりやすいのではないでしょうか。

 これまで日本では、板書にかわりパワーポイント図面をプロジェクタでスクリーンに投射したり、教材を拡大したり書き込みができる電子黒板を導入したりする教育環境のICT化、言い換えればアナログをデジタルに置き換えること、すなわちデジタイゼーション(Digitization)による効率化はそれなりに進められてきたと思いますが、デジタル技術を活用することで従来の面接授業では得られない『学修成果』や『教育効果』を生み出す努力、すなわちデジタライゼーション(Digitalization)への取組はほとんど行われてこなかったのではないかと思います。今回のコロナ禍による外圧で否応なく動いたというのが、大学の副学長職を兼任し2月以降の大学教育現場の混乱と新学期授業開始に向けた大学教職員の苦悩を直接肌で感じてきた私の正直な感想です。文部科学省の調査では、全国の国公私立大学、高等専門学校1066校のうち641校が遠隔授業、322校が面接・遠隔授業の併用、両者合わせて90.3%とほとんどの大学・高専が遠隔授業を実施しています(2020年6月1日時点)。今後は、面接・遠隔オンラインでのハイブリッド形式での授業がさらに広範に行われ、併せて新たな教育方法の開発も進展してゆくものと確信しています。

 欧米に比べMOOCs(Massive Open Online Courses)などのオンライン教材が不足している日本も今回のコロナ禍を契機としてコンテンツの充実が図られてゆきます。大学でのEDXのトライアルが初等中等教育の現場にも形を変えて浸透し、GIGAスクールの推進と並行して児童・生徒の教育もこれまでのものから大きく変貌してゆきます。幸いにも三田学園においては生徒全員にiPadを配布していたおかげで、コロナ禍第1波に呑まれることなく厳しい環境での教育を乗り越えられたと考えています。新時代の教育の先頭に立ち、コンテンツの充実を図り、個々の教員の強みを発揮する新しい教育法を開発することが、今後の三田学園の課題であり、同時に大きな強みの一つとなると考えています。

 

新年のご挨拶

2020/01/01

 新年、明けましておめでとうございます。

 旧年中は本学園の教育活動にひとかたならぬご理解とご支援を賜りました。厚くお礼申し上げます。

 また、私も本学園の理事長に就任いたしまして、初めての新年を迎えさせていただくことができました。重ねて感謝申し上げます。

 さて、令和元年は北畑前理事長から学園運営を引き継ぎ、本学園伝統の教育理念に時代が要請する教育環境との融合を図りながら、学校改革の進展に邁進してまいりました一年でした。

 おかげさまで、大学入試改革に向けた対応はもちろん、新しい時代に即した教育内容の拡充・深化を進めることができ、本学園にも対外的に高い発信力を持ち、行動力を示す生徒が現れるようになってまいりました。

 新年も全人教育の理念のもと、本校のスローガン「自分発、未来を創る人になる」を体現できる人間力を備えた生徒の育成、その基盤となる学校運営に全力を注いでまいります。

 一方、本学園の生徒たちにより良い教育環境と機会を提供する募金事業「教育振興基金」の第Ⅱ期募集を開始したところでございます。皆様の引き続いてのお力添えを賜われましたなら、この上なく幸いに存じます。

 最後になりましたが、皆様のこの一年のご健康とご多幸を心よりお祈り申し上げます。

令和2年元旦

学校法人 三田学園

理事長 丸泉 琢也

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